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陶芸作家<br>中村哲雄さんインタビュー / 前編

陶芸作家
中村哲雄さんインタビュー / 前編

いつも使ってほしいし
料理を盛ってもらえるものを作りたい

Interview with Tetsuo NAKAMURA

温かみのある土や釉薬の風合いと、バランスのとれた上品なフォルムで、どんな料理もおいしそうに見せてくれる中村哲雄さんの器。扱いやすくてつい毎日手に取ってしまうという方も多いのではないでしょうか。そんな中村さんの器が誕生するまでのいきさつや、器に込められた思いなどをたっぷり語っていただきました。まずは陶芸家になった経緯から、どうぞ。

text・photo/Masami INOSE

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中村哲雄さん経歴
1975年  神奈川県生まれ
2000年  東京・神奈川でITエンジニアとして働く
2005年  趣味で陶芸教室に通い始める
2012年  栃木県益子町に移住し、製陶所で働く
2016年  製陶所での勤務を終える。益子焼協同組合に勤務しながら作陶活動を始める
2017年  栃木県芸術祭美術展入選
2018年〜 益子焼協同組合を辞め、作陶中心に。現在に至る。

36、7歳の頃に「IT業界じゃなくて
陶芸で食べていけないかな」と


— 中村さんは益子で活動されていますが、ご出身はどちらなんですか。

中村 横浜市の神奈川区というところです。横浜って都会のイメージがあるかもしれませんが、すごく広くて。僕の住んでいたのは横浜でも周りに広々とした畑があるようなところ。都会には近いけれど、結構な田舎です。友達からは「あそこは横浜のチベットだ」なんて言われたりして(笑)。幼少期から就職するまでずっとそこに住んでいました。


益子の工房でうつわを作る中村さん

— 陶芸家になった経緯をお聞きしてもよいですか。中村さんは陶芸家になる前、ITの世界にいらしたんですよね。やはり理系がお得意だったのですか?

中村 そうですね、高校時代は理系の勉強が得意で、自分でも理系向きだと思っていました。でも、大学はいろいろ悩んだ挙句、文学部の英文学に進んだんです。ところが、就職活動の時にまた「自分はどの道に進むべきなのか?」とすごく悩んでしまって。
最終的に、本来自分が得意なもの、できそうなことをやろうと思ってITエンジニアの道を選んだのですが、当時は本当になりゆきというか、将来やキャリアについて考えてITエンジニアの職に就いたわけではなかったんですね。明確な目標もありませんでしたし。

— 実際にITエンジニアとして働いてみて、いかがでしたか。

中村 プログラムを書いたり設計したり、そういう作業自体は面白かったんじゃないかと思いますね。今でもそういうことはわりと好きですし。ただ、あまり考えずにこの仕事を選んでしまったというのもあって、働きながらも「僕は本当にこの業界に居ていいんだろうか?」と心の中でずっとモヤモヤしていたんです。

— 悩むかもしれないですね。若い頃はなおさら。

中村 まあ今にして思えば、そのまま頑張り続けることもできたかもしれないんですが、30歳くらいの頃に、その状態がちょっとつらくなってきちゃったんですね。それで、ある知り合いの方に相談したところ、「休日に、自分が楽しいと思える新しいことをはじめてみたらどうか」「陶芸なんて面白いんじゃないか」とアドバイスされて。

—  それで、陶芸の世界へ?

中村 はい。町の陶芸教室を探して通ってみることにしたんです。仕事はIT業界で続けながら、週に1回、休みの日に陶芸を。僕が最初に通った教室では、最初はぐい呑み、次に飯碗……という具合に少しずつ難易度が上がっていって、最後に自分が作りたいものを作る、という感じでした。途中で僕が東京に引っ越したので教室は別のところに変えましたけど、陶芸は変わらずずっと続けていました。

— 陶芸、楽しかったんですね。

中村 そうですね。始めてみたら、もうすごく楽しかった。それで、教室通いを続けるうちに、IT業界じゃなくて陶芸で食べていけないかな、と思うようになったんです。36、7歳の頃です。

— この頃、益子に移住していますよね。この時はもう陶芸家になるぞと決めていたのですか。

中村 いえ、僕は最初から陶芸家を目指していたわけではなくて、ただ陶芸が好きで、陶芸に携わる仕事をしたかっただけなんです。陶芸の仕事をするには、陶芸家になる以外にも、窯元で働くとか、陶芸教室で作り方を教えるとか、いろいろ道はありますよね。僕はネットで求人を探して、たまたま益子の製陶所(*)に働き口が見つかったので、IT業界から足を洗って、益子に引っ越したんです。益子ならば栃木県で、東京や神奈川からもまあまあ近いですし。

*益子にある「わかさま陶芸」のこと。1991年に陶芸家の若林健吾氏が設立。出身に石岡信之氏、志村和晃氏、寺村光輔氏ら多くの陶芸家がいる。

— 最初は陶芸家になろうと思っていたわけではなかったんですね。

中村 そうですね。それからその製陶所で弟子として4〜5年働いて、現場での修行をひと通り終えた後も、僕はまだ、陶芸家になるぞと強く決心したわけではなくて。ただ、同じ窯元で修行していた先輩たちは、その後、陶芸作家になる方が多かったので、僕もなんとなくその流れで目指し始めたんです。
 そうは言っても、いきなりいい作品が作れるわけでもないですし、生活もしなくちゃいけない。だから日中は益子焼協同組合(*)で働いて、あいた時間に貸し工房で作品を作ることにしたんです。

*益子焼協同組合…益子焼に使われる陶土や釉薬の製造・販売を行う組合


中村さんが作家を目指し始めた時から利用している益子の工房の敷地風景
photo/Tetsuo NAKAMURA

 

眺めるものではなく「使うもの」。
それを自分の好きなデザインで作れたら


— 2018年には益子焼協同組合を辞めて、本格的な作家活動に専念されています。私が中村さんのうつわとの出会ったのは2023年の春の益子陶器市でしたが、とにかく「料理がおいしく見えそうなうつわだなあ」というのが第一印象で。この作風が確立したのはいつ頃なんですか。

中村 作家を目指し始めてからずっと、自分が作りたいのはどんなものなのか、技術的な経験も含めて探りながらいろんなことを試してきたんですけれども、形としてでき上がってきたのは、4年くらい前(※2020年ごろ)ですね。ようやくしっくりくる方向性が固まってきた気がします。

— 模索していく中で、自分はこういう焼きものが好きなんだ、作りたい、という意向が決まったきっかけはあったんですか。

中村 先ほども言ったんですけども、僕はただ、陶芸に携わる仕事がしたくて益子に来たんです。「絶対に作家になりたい」とか、「どこかの産地の焼きものが特別に好き」とか、「憧れの作家さんがいて」とか、そういうのが全然なかったんですよ。

— うつわそのものというより、うつわを作る行為が好きだった、ということでしょうか。

中村 きっかけとしてはそうですね。それで、自分が実際に陶芸作家として活動をスタートする時に、初めて「じゃあどんなものを作ろうか」と本格的に考え出した。自分の好みを探るために、いろんなギャラリーを回って作家さんの作品を観たり、気に入ったうつわを購入して、使ってみたりしたんです。
 実際にうつわを使ってみると、気づくことがあったんです。素敵だなと思った作家さんのうつわでも、料理を盛るとあまりパッとしないとか、それなりの値段のうつわが食器棚にあるのに、あまり使わないとか、そういうことが結構あった。それがすごく残念で。やっぱり、せっかくお客さんに買っていただくんですから、料理を盛ってもらいたいですし、料理を盛った時に映えるもの、いつも手に取ってもらえるものを作りたい。そういう気持ちが、僕の中に一番にありますね。

— はー、なるほど。中村さんは、やはり、うつわの使い手のことを一番に考えていらっしゃるんですね。中村さんのうつわって形も風合いもすべてがちょうどいいなあ、お料理が映えるなあ、と使うたびに実感するんですが、今のお話を聞いて深く納得しました。どうりで使いやすいわけですね。中村さんにとって、うつわは、食器棚をあけてたまに眺めたり、飾ったりするものではなく、あくまで「日常的に使うもの」ということですね。

中村 そうですね、使うもの。それを、自分の好きなデザインで作れたらな、っていうところです。

— なるほど…。しかし、本当に、手作りのうつわって、作家さんの人柄や思いがダイレクトに表れますね…!

中村 僕も周りにいる人たちを見ていてそう思います。

— 益子は陶芸家さんだらけですもんね。

中村 みなさん気さくで、 陶芸仲間同士、温かく接してくれて、ありがたいです。

— 同じ益子に住んでいる陶芸家さんでも、作風は人それぞれで。一人ひとり違って面白いなあといつも感じています。

中村 今の人は特に、伝統的な益子焼を作ることにこだわらない人が多いと思います。土も、釉薬も、益子のものにこだわる人もいれば、こだわらない人もいて、自由に作っていらっしゃる方が多いという印象です。

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