
個性よりも、手に取った時に
ドキッとすることの方が大事
鈎 一馬さん インタビュー【後編】
Interview with Kazuma MAGARI前編では、陶芸家としての歩みを中心に、質感やあるべき重みといった、”モノ”としての器の力について語っていただいた鈎 一馬(まがり かずま)さん。後編では、ピンクにも、紫にも、うす茶色にも映る美しい「紅瓷(こうじ)」の作り方について詳しくお話を伺いました。器の奥にあるストーリーや、鈎さんの陶芸哲学。ぜひご覧ください。
text・photo/Masami INOSE 紅瓷
何かと影響しあって感じ方が変わる
感覚に「余白」が持てる器
— 十月の猫でお取り扱いさせていただいている「紅瓷(こうじ)」は、何色とも言いきれない独特の色合いと、風合いが魅力です。まず、土ですが、どんなものを使っているのでしょうか。
鈎 紅瓷の土は、磁器土をベースに数種類を混ぜて使っていて、この発色と質感が出るように、土のブレンド具合を調整しています。
— え、この赤っぽい色は、釉薬の色ではないんですか?
鈎 この釉薬は、白い土にかけると、普通の透明釉として出るんです。でも、この土にかけると赤い発色になる。土と釉薬で反応が起きて、赤く発色するというわけです。
— この土と釉薬の組み合わせじゃないと出ない色ということですか。不思議…!
鈎 釉薬はマット質のもので自分でブレンドしていますが、本当に基本的なものなんですよ。土も、そんなに特別なことはしてないんですけど、両方が組み合わさって、ちょっと違うものができてるって感じなんですよね。
— なるほど、そうなんですね。
紅瓷はどういうプロセスを経て生み出されたのですか?
鈎 別に「赤い発色のものを作りたい」と思って探したわけでもないんですよ。数多あるテストピースの中から、これ面白そうだな、というものをヒントとして引っ張ってきて、そこからいろんな試験を繰り返していく中で突然出てきたんです。赤い磁器なので「紅瓷」と名付けました。
— すごく素敵な色ですよね。
鈎 赤いのか、ピンクなのか、紫なのか。赤紫か、青紫か。でも茶色っぽくも見えるし。すごいアンニュイな色だなと思います。質感もツヤッとしてそうでマット質で、ピカッとしてそうでしっとりしてる。
その日の体調によっても見え方は変わるだろうし、盛る料理によっても見え方は変わるだろうし。なんかそういう、何かと影響しあって感じ方が変わる、感覚に余白が持てるところがいいんじゃないかなぁと自分では思ってます。色というより、そういう感覚をもたらしてくれるところがいいなと。
— 「紅瓷 藁白(わらじろ)」も素敵ですよね。これは、土は同じで、釉薬は違うものをかけているということですよね。
鈎 そうです。「藁白」には藁灰ベースの白濁した釉薬を使っていて、白い土にかけると真っ白に仕上がります。若干ポーッとピンクっぽく発色するのは、紅瓷の土と反応してそうなるんです。
紅瓷 藁白
でも実は、藁白のほうは、作るのがちょっと難しくなっていて。原料が変わっちゃったっていうのもあるんですけど。原料や材料には、何かしらの変化が起きているのが常なんで、そうなると作るほうは、調合や焼成を見直していかないといけない。藁白をまた主立って作るようになるかは、今のところわからないですね。
個性よりも、手に取った時に
ドキッとするかどうか
— 装飾の技法についても教えていただいてよいでしょうか。
鈎 線刻、陰刻、陽刻、掻き落とし、だいたいその4つです。あとは印花ですね、型打ち。それぐらいですかね、装飾は。
— それらを駆使して文様を描くんですね。鈎さんが描く文様は中国っぽいですよね。この蓮唐草(れんからくさ)とかも。
紅瓷 線刻 蓮唐草文 4.5寸 浅鉢
鈎 そうですね、中国陶磁の古いもの、いわゆる古陶磁と呼ばれるものをモチーフに描くことが多いです。
客観的に見て僕の作品には、発色という点で目新しさがあると思うんですけど、そこに既視感のような、馴染みのある要素があったほうが器として安心できると思って。その点は、中国陶磁の文様や装飾に助けてもらっていますよ。
文様には、個性とか、オリジナリティとか、僕らしさみたいなものは、なくてもいいと思っています。たとえば、僕が描いた1個の文様に、僕らしさがなかったとしても、それが100個集まれば、個性のような何かが見えてくる。個性は寄せ集めれば勝手に出てくるもの、くらいに思っています。個性の要素より、もっと大切なことあるでしょと。手に取ったり使ったりする時に、ドキッとすることの方が大事じゃないですか。
— ドキッとする器、そうですね。ときめくか、ときめかないか、という基準は私の中でも大事な要素のひとつです。
鈎 器ってだいたい色が決まっていて、割合で言えば、7割は白で、2割は黒。僕の器は、残りの1割に入るものだと思うんです。だけどその1割に入った時に、テーブル全体の印象を変えるような魅力を発揮できる器だと思っています。隙間産業みたいなものですね(笑)。
— インタビュー前に、鈎さんが「なんでも聞いてください」と仰っていましたけど、その意味がわかった気がします。どんな質問にも、明確なお答えがあるんですね。おかげで鈎さんの器に対する解像度が一気に高まりました。
今日は本当にありがとうございました! またぜひ、良きタイミングでお話を聞かせてください。
鈎 もちろんです。こちらこそ、ありがとうございました。
インタビュー前編はこちら
鈎 一馬さんの器はこちらから見られます
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